帳簿と記録の義務
介護タクシーの帳簿は、誰も教えてくれなかった — 営業ナンバーをもらった日に気づくべきだったこと
営業用のナンバーをもらったとき、私はうれしさのほうが先に立っていました。これでようやく、介護タクシーとして人を乗せられる。そのことで頭がいっぱいで、その先のことまでは、正直、考えが回っていませんでした。
開業して少し経ち、日々の慌ただしさが落ち着いてきたころ、ふと、おかしな感じがしました。私はこの車で、人を乗せて街を走っている。でも、この車がいつ、どこを、どう走ったのか——それを示すものを、自分は何ひとつ持っていない。営業用のナンバーをつけて走っているのに、その記録がどこにもない。これで、いいのだろうか。
書いているのは、関東で介護タクシーを営む現役の個人事業主です。
違和感は、義務を知る前に来た
正直に言うと、最初に動いたのは「義務だから」ではありませんでした。義務があることを、そのときの私はまだ知らなかったからです。
きっかけは、前職の記憶でした。前職では、車両の管理記録をシステムに入力して、出力する作業が、毎日の当たり前でした。朝、車の状態を確認して、記録に残す。面倒だと思いながらも、それをやらない日はなかった。
その記憶があるから、独立して自分の車を持ったとき、ふと引っかかったのです。あれだけ当たり前にやっていた記録を、今の自分は何もしていない。やらなくていいものなら、それでいい。でも、本当にそうなのか。一度、調べてみようと思いました。
調べてみたら、「作らなければならない」と出てきた
調べた結果は、はっきりしていました。私のような事業者にも、走った記録や、日々の点検、出発前の確認といったものを、記録として残す義務がある。「小さい事業所だから関係ない」ではなかったのです。
正直、あぶない、と思いました。さいわい、まだ事業を始めて間もないころでした。記録を残していなかったとはいえ、記憶を遡れば、どんな運行をしてきたかは思い出せる範囲だった。これがもっと時間が経ってからだったら、と考えると、ぞっとしました。
それと同時に、こうも思いました。やっぱり、面倒だ。できれば、やりたくない。——この気持ちは、今も正直あります。義務だと分かったからといって、すぐに前向きになれたわけではありません。
誰も、教えてはくれなかった
振り返って思うのは、この義務について、誰かが教えてくれた記憶がない、ということです。
許可をもらうまでの手続きでは、たくさんの書類を出しました。けれど、「許可が下りたあと、こういう記録を残し続けてくださいね」と、はっきり念を押された覚えはありません。交付されたときの書類の一覧に、それらしい項目が並んではいたのかもしれない。でも、その重さは、私には伝わっていませんでした。
だから、知らないまま走り続けている人は、たぶん少なくないのだろうと思います。私自身が、違和感をきっかけにたまたま立ち止まらなければ、同じように何も残さないまま、時間だけが過ぎていたはずです。
それでも、確かめないわけにはいかなかった
気づいてしまった以上、見なかったことにはできませんでした。何が義務で、もし残していなかったら何が起きるのか。面倒だという気持ちは抱えたまま、それでも、一つずつ確かめていくしかない。そう思いました。
このあと私が何を調べ、何を知って、どれだけ青ざめたか。そして、面倒な記録とどう折り合いをつけていったか。それは、続けて書いていきます。まずは、「自分はこの車の記録を、何も持っていなかった」。その事実に気づいたところから、すべては始まりました。
※この記事は私自身の体験を記したものです。記録の作成義務に関する制度の詳細は、続く記事で扱います。正確な内容は、管轄の運輸支局や国土交通省の公式情報でご確認ください。