開業してからの現実

介護タクシーは月何件で食えるのか — 開業半年、まだ生存線に届いていない私の正直な収支

介護タクシーを始めて最初の依頼を運んだ日、私は「これは楽勝かもしれない」と思いました。営業もしていないのに依頼が来て、いきなりまとまった金額になった。1日に2件こんな仕事があれば食べていける、と。

その考えが、どれほど甘かったか。

先に正直に書きます。私は今も、介護タクシー一本では生活できていません。開業して半年、まだ毎月赤字です。この記事は成功談ではありません。まだ生存線に届いていない現役事業者の、ありのままの数字です。

世の中に「介護タクシーで成功した話」はたくさんあります。でも、うまくいっていない時期の数字を正直に出す人は、あまりいません。だからこそ、私のこの半年が、これから始める誰かの役に立つかもしれない。そう思って書きます。書いているのは、関東で介護タクシーを営む現役の個人事業主です。

まず、食べていくには月いくら必要か

赤字かどうかを語るには、「いくらあれば赤字でないのか」を先に決めなければなりません。私の場合、その線はおよそ月50万円の売上でした。家庭の生活費と、事業の経費——車両や備品の減価償却、ガソリン代、消耗品、3ヶ月ごとの点検をはじめとする車両整備、保険料など——の両方を賄って、安心して暮らしながら事業を続けるには、それくらいが要る、という計算です。

では、50万円を売り上げるには何件運べばいいのか。これが一筋縄ではいきません。何件で届くかは、1件あたりの「最小の請負額」をいくらに設定するかで、大きく変わるからです。

私の料金は時間制にしました(料金メーターを付けると費用がかかるので、時間料金を選んだのです)。基本料金1,500円、車椅子は無料、リクライニング車椅子は3,000円。利用料は予約時刻から下車・サービス終了まで、5分ごとに570円(乗車中は運賃、非乗車中は介助料)。一般的な介護タクシーは30分単位の料金が多いのですが、私は5分刻みにしました。低額でも気軽に使ってもらえるように、と考えてのことです。

この「気軽に・低価格で」が、件数のハードルに直結します。

仮に最低3,000〜4,000円で受けると、月50万円に届くには100件前後こなさなければなりません。完全な薄利多売で、これはかなり苦しい。受ける最低額を引き上げれば、必要な件数は減らせます。単価別の目安で言えば、1件4,000円なら月125件、5,000円なら100件、6,000円なら83件。単価が上がるほど、ハードルは下がっていきます。

私が「介護タクシーの生存ラインは月90件くらい」と口にするのは、最低額の案件だけで月50万円を埋めると仮定したときの、おおよその目安がそのあたりだからです。実際には、後で触れるように高額な案件も時々混じるので、もう少し少ない件数でも届きえます。(なお私は最近、この最小の請負額を引き上げました。それで件数のハードルをどう動かしたか——という話は、打ち手として後の記事に譲ります。)

いずれにせよ、生存ラインは「90件前後」。これを頭に入れて、実際の数字を見てください。

では、実際はどうだったか

開業から半年の、月ごとの件数と売上です。正直に並べます。

経過件数売上
開業1ヶ月目8件8.5万円
2ヶ月目24件18万円
3ヶ月目24件13万円
4ヶ月目17件12.8万円
5ヶ月目30件27万円
6ヶ月目29件23.7万円

いちばん多い月でも、売上は27万円。必要な50万円の、ほぼ半分です。件数は最初の月の8件から、半年かけてようやく30件まで増えました。それでも、生存ラインの90件には遠く及びません。毎月、赤字です。

ひとつ補足しておきます。私の単価は、決して「安売り」というわけではありません。1件あたりの平均は8千円弱。安い時間制の短い利用もあれば、時には1件3万円ほどの高額な案件も混じります(2万円を超えるものはかなり少ないですが)。だから、平均すれば最低額よりはずっと上です。

つまり私の問題は、単価を安くしすぎたことではありませんでした。そもそも運ぶ件数が、生存ラインに全く届いていない。単価をどう見積もっても、最高で月30件では話になりません。どの計算で見ても、足りないのは件数だったのです。

なぜ、件数が伸びないのか

では、なぜ件数が増えないのか。半年の数字を分解して、私は二つの構造に行き当たりました。

「いただく案件」に頼りきっていた

正直に明かすと、私の案件の半分から3分の2は、他の介護タクシー事業者から回していただいたものです。これ自体は本当にありがたいことです。回してくださる側には「新しく入ってきた事業者を応援したい」という気持ちがあり、私は何度も助けられました。回す側が自分の生活のために単価の高い案件を手元に残し、それ以外を新規の私に回すのも、当然のこと。お互いにとって意味のある、よい関係だと思っています。

ただ——もらう案件ばかりで事業を成り立たせようとすると、構造的な弱さが出ます。いつまでも他人の事業の二番煎じであり、自分の事業の主導権を持てないのです。これは誰かが悪いという話ではありません。集客力のある事業者に依頼が集まり、新しく入った者はそこからの「おすそ分け」に依存しやすい——介護タクシーには、そういう構造があるのだと思います。いただく案件に感謝しつつも、自分で案件を生み出す力をつけなければ、件数の天井は破れない。半年の数字は、私にそう教えてくれました。

価格を「合わせる」という、業界の秩序

もうひとつ、件数と単価に関わる大事な慣行があります。他の事業者から回された案件は、回してくれた事業者の価格帯に合わせて、利用者に提示する、というものです。

なぜか。同じような送迎でも、事業者によって料金は違います。たとえば一方は7千円、もう一方は5千円、という具合に。ここで、もし回された案件で受け手の私が自分の安い価格を出してしまうと、利用者は「こっちのほうが安い」と気づき、次から私に直接頼むようになる。これを業界全体でやり始めたら、どうなるか。際限のない値下げ合戦です。価格はどんどん崩れ、やがて福祉有償運送並みの水準まで落ち、誰も適正な対価を得られなくなります。

だから、回された案件では元の事業者の価格を尊重する。これは、事業者が結託して儲けようという取り決めではありません。抜け駆けして客を奪い合わない、という誠実さであり、業界全体が値下げ合戦で共倒れせず、ちゃんとしたサービスが地域に残り続けるための秩序です。無秩序な安値競争で最後に割を食うのは、「安心して任せられる事業者がいなくなる」利用者自身なのです。価格の秩序を守ることは、事業者の生存と、利用者の利益とが一致する話だと、私は考えています。

正直に言えば、この慣行のおかげで、私は得もしました。回された案件では、本来の自分の安い価格より少し高い単価をいただける。結果として、売上を少し上げることができたのです。これも、もらう側と回す側のWIN-WINの一例だと思っています。

それでも、手をこまねいていたわけではない

ここまで、赤字の半年を正直に書いてきました。でも私は、この数字を眺めてただ落ち込んでいたわけではありません。

なぜ件数が伸びないのか。どこに構造の壁があるのか。それが見えてきたなら、打つ手はあるはずです。事実、私はこの分析をもとに、料金の考え方や案件の取り方を見直し始めました。

何を、どう変えたのか。その話は、次の記事で書きます。赤字の現実を直視した先にある、私なりの次の一手についてです。

注意書き

  • 本記事は筆者個人の経験(関東で介護タクシーを営む個人事業主)にもとづく体験記です。記載した件数・売上・必要額・単価は筆者の開業からの実績および試算であり、収支は地域・時期・事業者・事業形態により大きく異なります。
  • 本記事は特定の事業モデルの収益を保証するものではありません。開業の判断は、ご自身の状況にあわせて慎重に行ってください。