開業の手続き

介護タクシー開業資金は本当に300万円必要? — 実額207万円で許可された計算式の全部

「介護タクシーの開業には300万円くらいないと許可が通らない」——本やYouTubeでよく見る情報です。私も開業準備中、この数字を見て不安になりました。

先に結論を書きます。この「300万円説」は半分誤解です。許可の要件は金額の相場ではなく、公式の計算式で決まります。私は所要資金合計 約207万円で、個人事業主として許可されました。一方で、選ぶ車両によっては300万円説が現実になります。つまり大事なのは「いくら貯めるか」の前に「自分の数字で計算式を回すこと」です。

書いているのは、関東で介護タクシーを営む現役事業者です。この記事では、公式ルールの正確な読み方と、私が実際に提出した資金計画の実額を全部公開します。(開業ロードマップ全体はこちら)

結論サマリー

疑問答え
公式の要件は?自己資金 ≧ 所要資金合計の50%、かつ、事業開始当初資金の100%(残高証明書で証明)
筆者はいくらだった?所要資金合計 2,070,380円(軽の福祉車両・自宅開業・メーター不使用)
300万円説は本当?車両次第。軽なら200万円台もあり得るが、ハイエース級なら400万円規模になり「300万でも足りない」
一番の落とし穴は?「50%でいいんでしょ」の誤読(一括購入だと実質100%必要。後述)

公式ルール — 金額の相場ではなく計算式

資金の要件は、手引き(福祉輸送限定用)の様式例3-1「事業開始に要する資金及びその資金の調達方法」に全部書いてあります。費目は次の7つです。

  • (イ)車両費(購入は取得価格、リースは年額。所有済みなら0円にできる)
  • (ロ)土地費・(ハ)建物費(取得なら取得価格、賃借なら1年分の賃料+敷金等)
  • (ニ)機械器具・什器備品(タクシーメーター代など)
  • (ホ)運転資金(人件費・燃料油脂費・修繕費などの2ヶ月分)
  • (ヘ)保険料等(自賠責・任意保険・重量税などの1年分+登録免許税30,000円※様式に印字済み)
  • (ト)その他創業費等(広告宣伝費・帳票類の整備など)

これを合計したものが「所要資金」。そして一括購入なら全額・分割やリースなら頭金+2ヶ月分などで計算し直したものが「事業開始当初資金」です。要件はこうです。

ここがポイント: 「50%でいい」は危険な誤読

自己資金の要件は「所要資金合計の50%以上かつ事業開始当初資金の100%以上」の二重基準です(手引き様式例3-2の留意点に明記)。

ここで「半分でいいのか」と思うのが落とし穴。車両を一括購入すると、所要資金と事業開始当初資金はほぼ同額になります。すると「当初資金の100%」が効いて、実質、合計の全額が自己資金として必要です。私のケースもそうでした(後述の表で所要資金=当初資金)。

50%基準が効くのは、リースや分割で当初の支払いを小さくできる場合です。自分の買い方で、必ず両方の基準を計算してください。

筆者の実例 — 提出した様式例3-1の実額

私が実際に提出した数字です。前提は「軽自動車(アトレー)の福祉車両を一括購入・自宅開業・タクシーメーター不使用」。

費目金額
(イ)車両費(一括購入)1,355,366円+消費税14,634円
(ロ)土地費0円(自宅開業)
(ハ)建物費0円(自宅開業)
(ニ)機械器具・什器備品(メーター代)0円(メーター不使用)
(ホ)運転資金(2ヶ月分)460,000円(人件費40万/燃料油脂4万/修繕2万)
(ヘ)保険料等(1年分)140,380円(自賠責11,440/任意保険95,640/重量税3,300/登録免許税30,000)
(ト)その他創業費等100,000円
所要資金合計(=事業開始当初資金)2,070,380円
(参考)合計の50%相当額1,035,190円
自己資金(残高証明書の金額)3,640,669円

この表から見えてくる構造が2つあります。

  1. 最大費目は車両費(約135万円=全体の約3分の2)。つまり開業資金は車両選びでほぼ決まる(なお、この約135万円の車両は、当初予定していた車両が売れてしまい変更したものです。申請後の車両変更で追加申請が必要になった経緯はこちらに書きました)
  2. 自宅開業なら土地・建物費がゼロ、メーターを使わなければ什器費もゼロにできる。この2つのゼロが合計を200万円台に抑えた

なお、運転資金の内訳(人件費40万円/燃料油脂費4万円/修繕費2万円)は、手引きの記載例の値を踏襲したものです。記事03で書いた「実数がない項目は作成例の値の置き方をなぞる」の実践例です。

また一括購入のため所要資金=当初資金で、自己資金は全額の2,070,380円以上が必要でした(50%の約104万円ではありません)。私は日頃の貯金で賄えましたが、ここが「50%誤読」の怖いところです。

ケース別の見立て — 300万円説は車両次第で現実になる

私の数字を土台に、車両だけ入れ替えて考えてみます。

ケース車両費の目安所要資金の規模感
軽の福祉車両(筆者)約137万円約207万円(実績)
ハイエース級の福祉車両300万円規模400万円規模 → 一括購入なら自己資金も400万円規模

つまり「300万円説」は、ハイエース級を想定すれば控えめなくらい現実的で、軽なら過大です。相場の数字を信じるのではなく、乗せたい利用者像(車いすのみか、ストレッチャーまでか)から車両を決め、自分の様式例3-1を埋めて計算するのが正解です。

なお、YouTubeなどには「明文基準とは別に、ギリギリの自己資金では運輸局が通さない」という説もあります。私の残高は要件を大きく上回っていたため、この説の真偽は私の経験からは検証できません。真偽不明の伝聞として受け取り、心配なら運輸局に直接確認してください。

コラム: 福祉車両の任意保険は断られることがある

意外な伏兵が任意保険でした。福祉車両は改造車両の扱いになるため、保険会社によっては引き受けを断られます。私は数社に断られ、最終的にあいおいニッセイ同和損保で営業用車両として契約できました(引受基準は時期や条件で変わります。あくまで当時の私のケースです)。

許可要件としての最低ラインは対人8,000万円以上・対物200万円以上(免責30万円以下)(手引き記載)。私は対人・対物・搭乗者とも無制限で契約しました。人を乗せて運ぶ事業です。ここはケチるところではない、というのが私の考えです。

残高証明書は「申請日直近」— 段取りに注意

自己資金は、**申請日直近の残高証明書(申請者名義)**で証明します。私は楽天銀行に依頼しましたが、電話での手続きが必要で、書類が届くまで1週間以上かかりました。

「申請日直近」という条件と「発行に1週間以上」という現実を両立させるには、申請日から逆算して早めに動くしかありません。ネット銀行は窓口がないぶん、発行フローを事前に確認しておくことをおすすめします。なお手引きには、自己資金は申請時点だけでなく処分(許可)までの適宜の時点で確保されていることとも書かれています。

コラム: 「借りてきた金で残高を作る」のはやめておく

ネット上には「融資などで借りて口座残高を大きくして証明書を作ればいい」「残高は2回確認されるから、2回目の後に返金すればいい」というアドバイスも出回っています(私の場合、確認は1回でした。回数は地域の運用によるのだと思います)。

**これは明確におすすめしません。**理由は3つです。

  1. 自己資金要件の趣旨は、開業後に事業を続けるための安全余力です。返す前提の残高は、数字の上で要件を満たしても趣旨に反します(実際、運転資金2ヶ月分が費目に入っているのはそのためでしょう)
  2. 上の残高証明書の節で触れたとおり、手引き自体が「申請時時点及び処分までの適宜の時点で確保されていることが必要」と明記しています。つまり申請時の一瞬だけ残高を作っても、制度上の要件を満たしません(補助情報として、残高確認が複数回行われる地域運用の例も伝えられています)
  3. 発覚すれば申請全体の信頼性を損なうリスクがあります

元手が足りないなら、正攻法は2つ。車両のグレードを見直す(軽福祉車両なら200万円台に収まり得るのは上の表のとおり)か、開業時期を遅らせて貯めるか。地味ですが、開業後の赤字期間を耐える体力も含めて、結局これが近道です。

まとめ

  • 開業資金の要件は相場ではなく計算式: 自己資金 ≧ 所要資金合計の50% かつ 事業開始当初資金の100%
  • 一括購入なら実質100%(全額)が必要。「50%でいい」と読まない
  • 筆者の実績は約207万円(軽福祉車両・自宅開業・メーター不使用)。開業資金は車両選びでほぼ決まる
  • ハイエース級なら400万円規模。「300万円説」は車両次第で現実になる
  • 福祉車両の任意保険は断られることがある。早めに数社へ。最低ラインは対人8,000万・対物200万(免責30万以下)
  • 残高証明書は発行に時間がかかることがある。申請日から逆算して手配
  • 「借りて残高を作る」は非推奨。車両の見直しか、貯めてからが正攻法

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注意書き

  • 本記事は筆者個人の開業経験(関東運輸局管内・個人事業主)にもとづくものです。金額は筆者の申請当時の実額であり、車両価格・保険料・税額・手続きの運用は時期や条件により変わります。必ず現行の手引きと管轄の運輸局・運輸支局への確認を正としてください
  • 保険の引受可否・条件は保険会社・時期・車両により異なります。本記事は特定の保険商品を推奨するものではありません
  • 一次情報の参照リンクと確認日: