開業してからの現実

介護タクシーの酸素・吸引はどこから違法か——通知が引いた線と、合法の道

営業で病院を回っていた時期に、ある病院の医療相談員と話す機会があった。搬送の相談を受ける側のプロだ。私は前から気になっていたことを聞いてみた。介護タクシーで酸素が必要な方を運ぶとき、あれはどうしているんですか、と。

返ってきたのは、みんな普通に使っているよ、という趣旨の返答だった。特別なことだとは思っていない口ぶりだった。

私が、酸素の投与は医師の指示が要る医療の行為で、乗務員が判断で触れるものではないはずです、と伝えると、相手は驚いた。そんな話は初めて聞いた、という趣旨のことを言われた。

搬送を依頼する側のプロが知らない。だとすれば、依頼を受ける側が知っているはずもない。需要側にも供給側にも知識が存在していない。この記事は、その線がどこに引かれているのかを一次資料で確認し直したものだ。

搬送中、容態は動く

私は救急隊として現場に出ていた。救急救命士の資格はいまも持っている。その経験から先に書いておきたいことがある。

酸素を使っている方の搬送は、静止した状態の延長ではない。ベッドから車椅子へ、車椅子から車両へ。移乗のたびに姿勢が変わり、呼吸の楽な角度は崩れる。路面の段差、乗り降りのための待機時間、車内の温度。移動の途中で酸素飽和度が下がっていく場面はある。

そういう場面で、酸素を増やすのか、いったん止めて姿勢を整えるのか、そのまま急ぐのか。判断が要る。そして、その判断を誤ったときに被害を受けるのは運んでいる人ではなく、運ばれている人だ。

法律が酸素の開始と停止を素人判断の外に置いているのは、この構造があるからだと私は理解している。危ないから禁止しているのではなく、判断を伴う行為だから、判断できる資格を持つ人の枠に置いている。

なぜ違法になるのか

酸素の投与も喀痰の吸引も、法律の上では医師や看護師の資格の枠にある医療の行為として扱われる。医師法第17条は医師でない者が医業を行うことを禁じ、保健師助産師看護師法第31条は看護師でない者が診療の補助を業として行うことを禁じている。

罰則は軽くない。保健師助産師看護師法第43条第1項は、同法第31条に違反した者を2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処し、併科もできると定める。医師法第31条第1項は、同法第17条に違反した者を3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処し、これも併科ができる。

では、どこからが「医療の行為」なのか。介護の現場での線引きを示しているのが、令和4年に厚生労働省の医政局長が出した通知だ。医師法第17条などの解釈について整理したもので、表題に「その2」と付されている。在宅酸素療法についての項目がある。

まず、免許を持たない者がやってはいけないと明記されているのは、次の二つだ。

  • 酸素吸入の開始。流入が開始している酸素マスクや経鼻カニューレを装着することを含む
  • 酸素吸入の停止。吸入中の酸素マスクや経鼻カニューレを除去することを含む

これらは医師、看護職員、または患者本人が行うこと、と通知は書いている。患者本人が入っているのが重要で、自分で着け外しができる方が自分でやる分には問題がない。問題になるのは、乗務員が代わりにやる形だ。

一方で、やってよいと整理されている行為もある。

  • マスクやカニューレを装着していない状況下で、あらかじめ医師から指示された酸素流量に設定すること
  • 酸素を流入していない状況下での、マスクやカニューレの装着等の準備
  • 酸素離脱後の片付け
  • 酸素供給装置の加湿瓶の蒸留水の交換、機器の拭き取り

吸引の側にも同じような整理がある。吸引器に溜まった汚水を捨てる、吸引器に入れる水を補充する、吸引チューブ内を洗浄する目的の水を補充する。この範囲は医療の行為とはされていない。

ここまでを読むと、準備と片付けは自由、装着した瞬間からアウト、という単純な線に見える。ところが通知には、そう単純ではない項目が別立てで置かれている。

ずれたカニューレを戻すこと

通知の注記に、こういう整理がある。酸素が流入しているマスクやカニューレがずれて、患者が一時的に酸素から離脱した(流入量が減った場合を含む)と見込まれるとき、それを元の位置に戻すことも、原則として規制の対象とする必要はない、と。

ただし、これは二重の条件が付いている。まず、ずれによって一時的に酸素から離脱したことが見込まれる場合であること。そのうえで、対象となる患者は次のいずれかに限られる。

  • 肢体不自由等により、自力でマスクやカニューレを戻すことが困難である患者
  • 睡眠中や意識がない状態で、自力でマスクやカニューレを戻すことが困難である患者

つまり「ずれたものを元に戻す」ことと「流入しているものを新たに装着する」ことは、通知の上では別の行為として扱われている。前者は条件付きで枠の外、後者は酸素吸入の開始そのものだ。

この違いは、直感と逆向きに感じられるかもしれない。よかれと思って車内で酸素を入れ始める、あるいは苦しそうだから止める。そちらのほうが明確に枠の中で、ずれを直すほうが条件付きで枠の外にある。

なお、酸素が流入している状態で流量を変えることについては、通知が「やってよい」と挙げた列挙の中に入っていない。かといって、やってはいけないと名指しで書かれてもいない。ここは私が断定できる材料を持っていないので、断定しない。少なくとも、通知がお墨付きを与えた行為ではない、とまでしか言えない。

「原則として」が外れるとき

もうひとつ、通知には全体にかかる留保がある。ここまでに挙げた行為は原則として規制の対象とする必要がないものだが、病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医療の行為であるとされる場合もあり得る、と書かれている。

この一文は、介護タクシーにとってはかなり重い。通知が並べている「やってよい」のリストは、容態が落ち着いていることを前提に組まれている。ところが冒頭に書いたとおり、搬送中というのは容態が動きうる場面だ。移乗と振動と時間経過が重なる区間で、前提が崩れることがある。

だから「準備と片付けまでなら大丈夫」という覚え方は、半分しか正しくない。正確には、容態が安定している限りにおいて大丈夫、ということになる。そして安定しているかどうかを判断すること自体が、本来は医療の側の仕事だ。

料金表の書き方が、実態の自白になる

ここからは、書類の話をしたい。

介護タクシーの料金表に、酸素を項目として立てている事業者がある。「酸素 〇リットルあたり〇円」といった形だ。この書き方は、二つの意味で読まれうる。

ひとつは、酸素を投与するという行為の対価として読まれる読み方だ。投与は先ほど見たとおり医療の行為の枠にある。無資格の乗務員が行う形であれば、その対価を取っていると料金表が示していることになる。

もうひとつは、酸素というモノを売っているという読み方だ。医療用酸素は日本薬局方に収載された医薬品である。医薬品医療機器等法第24条第1項は、薬局開設者または医薬品の販売業の許可を受けた者でなければ、業として医薬品を販売し、授与し、または販売・授与の目的で貯蔵・陳列してはならないと定めている。自社のボンベの酸素を、対価を取って使わせる形は、この条文の射程に入りうる。罰則は同法第84条第9号により、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金で、併科もある。

同じ搬送でも、書き方が変われば意味が変わる。「看護師同乗プラン」として書かれていれば、対価は搬送という役務と、有資格者が同乗するという役務に対して払われている。酸素は医師の指示に基づく処置の手段であって、商品ではない。

自分の料金表を開いて、酸素の行が何の対価として書かれているかを見てほしい、というのが、この記事で一番伝えたいことだ。

ただし、はっきり書いておく。料金表に酸素や吸引が載っているから違法だ、という話ではない。 後で述べるとおり、載せていて何の問題もない形は実在する。書き方が実態の自白になるというのは、実態が違法な場合にそれが表に出るという意味であって、逆は成り立たない。

合法の道は、三つと、もう一つ

線引きの話ばかりしてきたが、この記事の目的は「やめておけ」ではない。運べる形は存在する。

一つめ:看護師が同乗する

もっとも素直な形だ。主治医の指示書があれば、看護師は自分の資格の範囲で車内の処置ができる。酸素の開始も停止も、看護職員が行うことは通知が正面から認めている。

事業者が看護師を雇うのは重いので、現実的には訪問看護ステーションとの連携が形になりやすい。すでにその方に関わっている看護師が、搬送の区間だけ同乗する。医師の指示が最初から存在している状態を作れるのが強い。

二つめ:救急救命士が同乗し、医師の指示を受ける

救急救命士法第2条は、救急救命士を、医師の指示の下に救急救命処置を行うことを業とする資格と定めている。行う場所についても、同法第44条第2項と施行規則第22条が枠を定めていて、重度傷病者の搬送のために使用する車両であって、医師の指示を受けるために必要な通信設備など、救急救命処置を適正に行うために必要な構造設備を備えたものであれば、消防の救急車には限られない。

ただ、正直に書いておく。この道はハードルが高い。有資格者を確保すること、車両が求められる設備を満たすこと、そして何より、搬送のたびに医師と直接やりとりして指示を確かめる段取りを、毎回成立させることが難しい。担当の医師がすでに酸素を使う前提で転院を決めているのなら、指示の実体はそこにあるはずだ。だが、それが誰の指示なのかを確かめ、病院側と共有できて、初めて業務として回る。看護師の道が「すでに指示が存在する流れに乗る」形であるのに対し、この道はその指示を毎回確かめ、形にしにいくことになる。処置の記録も残さなければならない。制度として存在することと、日々の運行で回ることは別だ。

三つめ:利用者本人の機器を運ぶ

在宅酸素療法を受けている方は、自分の酸素機器を持っている。その機器を、本人の管理のまま搬送する形だ。事業者がやるのは機器の運搬と、通知が認めた範囲の準備と片付けまで。開始と停止は本人が行う。

このとき、料金は「酸素の提供」に対してではなく、役務に対して設計することになる。酸素機器を搭載できる車両を用意し、積み下ろしの手間を引き受けることの対価だ。何を売っているのかがはっきりしていれば、料金表の行も自然にそう書ける。

なお、医療用酸素のボンベを積んで走ること自体にも、高圧ガス保安法の移動に関する規制がかかる。容器の固定などの話で、この記事では深入りしないが、酸素を扱うなら別途確認しておきたい領域だ。

もう一つ:喀痰吸引等制度(吸引のみ)

吸引については、介護職員が行うための制度が別に用意されている。喀痰吸引等制度だ。こちらは酸素には使えないが、吸引に限れば正面から道がある。

必要になるのは、喀痰吸引等研修を修了すること、都道府県から認定特定行為業務従事者の認定を受けること、事業所として登録を受けること、医師の指示書があること、看護職員と連携すること、計画書と報告書を整えること。研修には不特定多数の方を対象とする区分と、特定の方だけを対象とする区分があり、利用者が入れ替わる業態では前者でないと回りにくい。

ただし、運送だけを行う介護タクシー事業所が、この制度の事業所登録を受けられるかどうかは、私が確認できていない。事業所として登録できるかは、都道府県の窓口に確認が必要だ。

そして繰り返しになるが、この制度に乗っている事業者が吸引を提供するのは合法だ。 料金表に吸引が載っていることをもって外から違法だと判断することはできない。

酸素を売るのではなく、医療処置の継続を売る

ここまで見てきたことを一言でまとめるなら、売り物の再定義になる。

搬送中の酸素は、新しい治療の開始ではない。すでに医師の管理下で始まっている処置を、移動している間も途切れさせないことだ。そう考えれば、医師の指示があることは特別な手続きではなく、もともとそこにあるはずのものになる。指示を取りにいくのが大変なのだとしたら、それは処置の継続としてではなく、単発のサービスとして酸素を扱おうとしているからかもしれない。

酸素をモノとして売れば、医薬品の世界の話になって成立しない。投与という行為を売れば、資格の世界の話になって成立しない。医療処置の継続を売るなら、対価は搬送と同乗という役務に付き、酸素はその手段になる。

最後に、通知自身が付けている注記を引いておきたい。この整理はあくまで医師法などの解釈に関するものであって、事故が起きた場合の刑法や民法の規定による刑事上・民事上の責任は別途判断されるべきものである、と通知は書いている。つまり、線の内側にいることは、何かあったときに責任を問われないことを意味しない。

この問題の厄介なところは、事故が起きるまで表面化しないことだ。何も起きなければ、誰も料金表を見に来ない。医療相談員も、事業者も、利用者も、それが線のどちら側なのかを知らないまま日々が過ぎる。

だから、脅すつもりはない。ただ、自分がどこに立っているかを知っていることと、知らずに立っていることは違う。線の位置は一次資料に書いてあって、誰でも読める。読んだうえで、看護師と組むのか、本人の機器を運ぶ形にするのか、吸引の制度に乗るのか、あるいは今は扱わないと決めるのか。どれを選んでも、選んだと言えることのほうが強い。

この記事の根拠と確認日

  • 罰則の条文は、保健師助産師看護師法第43条、医師法第31条、医薬品医療機器等法第84条・第24条第1項を、e-Gov法令検索で確認した(確認日:2026年8月4日)。刑名はいずれも拘禁刑への移行後の表記である。
  • 介護現場での線引きは、厚生労働省医政局長通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)」(令和4年12月1日)の別紙および注記による(確認日:2026年8月4日)。
  • 同名の通知には令和7年12月26日付の「その3」があるが、そちらの別紙は服薬準備等と蓄尿バッグ交換等に関する内容で、酸素および喀痰吸引についての記載はない。酸素の線引きは令和4年の「その2」が現行である(確認日:2026年8月4日)。
  • 救急救命士の道の記述は、救急救命士法第2条・第44条第2項および救急救命士法施行規則第22条による(確認日:2026年8月4日)。
  • 制度・解釈は変わりうる。実際に運用を組む際は、必ず最新の原文と、所管する都道府県の窓口で確認してほしい。